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健康コラム

2015年5月18日 月曜日

うつ病のお話

 何となく気が沈む、いらいらして落ち着かない、体がだるく、食べ物がおいしくない、頭が重く眠りにくい。こんな経験をしたことがありませんか?長く続くときはうつ病かもしれません。

 最近うつ病はマスコミでもさかんに取り上げられ、注目されていますが、正しく理解されているでしょうか。うつ病は心の風邪とよく言われます。誰にでもかかる可能性があり、こじらせるとなかなか治りにくくなってしまいます。

 まずはじめに、うつ病とはどのような病気なのでしょうか。
 うつ病になると心と体の両方に様々な症状が現れます。気分が憂うつ、寂しい、やる気が出ない、集中してできない、ものが覚えられない、何も決められない、何事も楽しくない、何か不安で落ち着かない、自分を責めてしまう、生きている価値がない等の心の症状に加え、体がだるい、食べ物がおいしくない、眠れない、頭が重たい、肩がこる、動悸がする、あちこち体が痛い等、体の症状もでてきます。いわば、心身のエネルギーが低下している状態です。これらは一般でも見られる症状ですが、うつ病ではより長く続きます。本人にとっては大変つらいことです。
 うつ病は、心理的ストレス、例えば親しい人との死別、離婚等つらい体験だけでなく、昇進、結婚等、明るい体験も時にはストレスとなり発症します。真面目で几帳面で完璧主義の人がなりやすいとも言われていますが、必ずしもそうとは言えません。むしろ、急激な環境変化について行けなくなった結果と言えます。
 
 では、うつ病の治療はどのように行われるのでしょうか。
 うつ病の発症要因は様々なため、それらを正しく把握することから治療は始まります。どのような心理的要因があるのか、家族関係・職場関係等の環境面、性格、さらには身体面、年齢等を考えた上で、発症要因を理解し、できるだけ苦しみを軽くする方向で環境調整をしていきます。時には仕事を休み、休養することも必要になります。
 うつ病になると脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが不足するため、これらを補う抗うつ薬による薬物治療も症状の改善につながります。不眠、不安等の症状があれば睡眠薬、抗不安薬等も使われます。病状の改善には一般的には数ヶ月がかかります。焦らず治療していきましょう。改善した後も再発することがありますから、しばらく治療の継続が必要です。改善した後今までの生き方を見直す事も、再発の予防につながります。

 高度に機械化された現代社会はストレスに満ちています。社会の価値観の変化と共に、うつ病も様々な病態を示すようになっています。したがってその対処法、治療法も病態により異なってきます。
 うつ病は先に述べましたとおり、様々な症状が出てきます。体の病気と思って色々な科を受診しても原因が分からず、後でうつ病と分かることもあります。どんな病気も早く見付け、適切な治療を受ける事が回復につながります。症状が続いているときは、一度精神科、心療内科の専門医療機関を受診されることをおすすめします。

投稿
土屋心療内科 院長 土屋和紀

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2015年3月17日 火曜日

おしっこの悩み あれこれ 

おしっこのお悩みあれこれ
          ~日常外来会話から~

 泌尿器科疾患の病気については病名ごとに詳しく記載した文献やコラムがすでにたくさんありますので、今回は日頃皆さんより外来でお聞きする内容から気がついた点をいくつかお話してみます。

・『来る前にオシッコしたところや』『さっき駅の便所でしたばかりですわ』
初診の方に時々いらっしゃるのですが、この場合、採尿できるまで余計に長時間待っていただく事があります。この後も再々出てきますが、泌尿器科外来診療では尿検査と残尿測定が診断の基本中の基本の材料です。受診時、最初に採取していただくオシッコからテープ定性検査・顕微鏡検査がすぐできます。これにより尿蛋白・尿糖・出血・感染の有無、場合により腫瘍細胞や結石の可能性などさまざまな情報がつまっています。だから皆さんが泌尿器科に受診される時は最低1時間オシッコを我慢して受診して下さい。

・『夜中、何回もトイレに行くんですわ』『昼間1~2時間しか我慢ができません、ひどい時はさっきトイレに行ったのに30分も持たずまたすぐ行くんやけど』
 最近テレビのCM・雑誌などで「過活動膀胱」という単語をよく耳にされると思います。「過活動膀胱」の場合、膀胱の過収縮を弱める薬を内服することによってかなり改善する事が多いです。ただ「頻尿」=「過活動膀胱」ではありません。「オシッコをしたいと思ったらトイレまで待ったなしや」とか「トイレまで間に合わず漏れる事もある」という時はまず「過活動膀胱」の典型的な状態と考えていいと思いますが、頻尿の原因が膀胱炎に起因する場合や残尿多量に起因する場合や心因性の場合もあります。膀胱炎原因の場合は抗菌剤投与によって原因菌を殺菌してしまえば頻尿は劇的に改善しますし、残尿多量が原因のときに「過活動膀胱」に使う膀胱の過収縮を弱める薬を投与するとさらに排尿困難・残尿・頻尿が悪化し最悪の場合尿閉(膀胱がパンパンになりオシッコが出ない状態)になる事もあります。この場合は膀胱の出口(括約筋)を排尿時弛緩させる薬が第一選択薬となります。
したがって最初にお話ししましたように、尿検査と残尿測定は頻尿の原因を鑑別するためにも重要な検査となります。尿検査はカップで採尿するだけですし、残尿測定も昔は尿道からカテーテルを膀胱に入れて採尿測定していましたが今はお腹の上から超音波で診るだけで残尿量が簡単に概算できます。

・『オシッコが出にくいんだけど』
 これも、「過活動膀胱」や「心因性」による頻尿の結果1回尿量が少ないために出にくいと思われている方と、膀胱収縮力が低下していたり尿道括約筋の開き方が不十分でその結果残尿が多量になっている方がおられ、それぞれの薬が上記のように全く違いますのでまず残尿測定が重要となります。

・『前立腺肥大症をほっといたら前立腺癌になるの?』
これも外来診療中よく患者さんから尋ねられます。どちらも中高年から年齢とともに発生頻度が上がっていく男性の病気ですが、結論からいうと「全く別の病気」です。前立腺の中での発生部位も異なりますし、前立腺肥大症は良性腫瘍・前立腺癌は悪性腫瘍です。
前立腺肥大症は、いくら肥大が大きくなっても、残尿(これは超音波検査ですぐわかります)がなく頻尿も気にならずスムースに排尿が出来ていれば、極端な話、治療の必要はありません。残尿感・頻尿・排尿困難を感じてきたらそろそろ治療のタイミングの目安と考えて下さい。
しかし、前立腺癌は無症状のうちに進行する事もよくあります。したがって男性の皆さんは、「オシッコの症状の有る無しに関係なく」50歳代は数年に1回、60歳以降は毎年1回PSA血液検査を受けられる事をおすすめします.

最後になりますが
・『調子悪かったけど泌尿器科を受診するのが恥ずかしくてなかなか来れませんでした』
これは特に女性の方からよくお聞きしますが、診察の基本は、問診・尿検査・残尿測定から始まり、御本人への説明・了承後必要に応じて超音波検査・レントゲン検査・内視鏡検査etc.へとひろがっていきます。

排尿に関して気になる症状を自覚した時は、我慢せず早期に泌尿器科を受診して下さい。


投稿
友岡泌尿器科医院 院長 友岡義夫

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2015年2月 2日 月曜日

花粉症のおはなし

花粉症に対する舌下免疫療法のおはなし

 今年もスギ花粉の季節がやってきました。予測では阪神地区の花粉飛散量は、関東とは違って、昨年より若干少なめで、飛散開始は2月中旬と予測されています。少なめといっても症状発現には充分の飛散量ですので、花粉症の方は、従前通りの対策が必要です。一番大切な事は、花粉の被爆を避けること。花粉情報などに注意して、多い時は外出を控えるとか、帽子・マスク・眼鏡の着用などで花粉に身をさらさないことや、また、花粉が付着しにくい服装をしたり、布団や洗濯物をなるべく外に干さないようにして、家に花粉を入れない様に工夫する事が大切です。症状が出て日常生活に支障が出るようなら、治療が必要ですが、治療法は、主として症状を緩和する対症療法(薬物療法や手術療法)が行われます。一方、根治をめざして行うアレルゲン免疫療法もあります。対症療法は薬物療法が主体で、従来通りですので、ここでは昨年の秋から保険適用になり、新聞・TVなどのマスコミで盛んに取り上げられた「舌下免疫療法」について解説していきます。 
免疫療法としては、従来、スギ花粉エキスを皮下に注射して行う減感作療法が行われてきました。この治療は、アレルゲン(抗原)であるスギ花粉エキスを低濃度から注射しはじめ、それを徐々に増量していきます。治療を継続することで、アレルギー症状を緩和し、アレルギー治療薬の服用量を減らすことができ、唯一花粉症を根本から治癒できる可能性のある治療法です。しかし、注射による疼痛や長期間にわたる頻回の通院など、患者さんへの負担が大きく、アナフィラキシーショックなど重篤な副作用の危険性もあることから、一部の施設のみでしか行われていないのが現状です。
これに対し、舌下免疫療法では、スギ花粉エキスを舌下に投与し、頸部や舌下のリンパ節などの限られた部位で免疫反応を起こさせるため、皮下注射免疫療法に比べ、体内に吸収されるアレルゲン量が少なく、全身性のアナフィラキシーショックを起こしにくいとされています。また、患者さんに合わせてアレルゲンの投与量や投与スケジュールを調整する必要がなく、一律に処方できるため、医師側には手間がかからない点もメリットです。
皮下注射による減感作療法は、主としてアメリカで行われてきました。一方、舌下免疫療法はヨーロッパを中心に開発が進んで、イネ科やシラカバなどの治療法として行われてきました。しかしまだ25年程度の実績しかなく、比較的新しい治療法と言えます。本邦では2005年からスギ花粉症に対する臨床治験が多施設で行われるようになり、その有効性が認められて、昨年秋より保険適用になり、臨床応用が始まりました。ただし、厚生労働省は、この薬剤の承認条件として、十分な知識や経験を持つ医師にのみ処方が可能であるとしたため、日本耳鼻咽喉科学会や日本鼻科学会では講習会を設け知識の普及を図っており、製薬会社ではe-learningを提供し、講習を受けた試験合格者のみが処方医として登録されるシステムになっています。筆者がこれらの講習会や臨床試験担当者の講演会などから得た情報による、投与法、治療効果、治療適応患者、副作用などについて、記します。
1)投与法:スギ花粉舌下液(1mL)を1日1回、舌下に滴下し、2分間保持した後、飲み込む。その後5分間は、うがい・飲食を控える。
2)投与期間:効果を得るには最低でも2年間継続する必要があり、その効果を持続させるには3~5年の投与継続を要する。
3)治療成績:まだ、十分な症例の集積がないので、断定的な事は言えないが、2年間継続服用できた患者では、著明改善(服薬などを必要としない)例が約3割、改善例(症状は軽減したが、服薬や点鼻を必要とする)が5割、不変または悪化例が約2割(報告施設毎に多少異なる)とされている。なぜ有効性に差があるのかについては、目下、血清学的・遺伝子学的な検討が数学的解析などを基に研究されています。
4)副作用:アナフィラキシーショック(血圧低下や呼吸困難)などの生命に係わる重篤な副作用の報告はないが、局所反応は、口腔、舌、口唇の腫脹やかゆみ、のどのかゆみ、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、胸焼け、口蓋垂の浮腫などがあり、口腔内に限れば5~10%に見られると報告されている。
5)適応患者:1.花粉が原因であることが明確なアレルギー性鼻炎患者であり、症状に合致したアレルゲン検査陽性患者。2.薬物療法で十分コントロールできない患者、例えば、薬剤無効例、副作用が強い、服薬などがきちんとできない、薬物療法を希望しない患者など。3.皮下注射免疫療法で全身性副反応を生じた患者(全身性じんましんや喘息発作など)。4.臨床的治癒・寛解を希望する患者。など。
6)適応にならない患者:1.β阻害薬(降圧剤の一種)を使用している患者(副作用の際にアドレナリンを使うが、これが使えないため)。2.開始時に妊娠している患者3.重症喘息を合併している患者。4.全身性の重篤疾患(悪性腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全、重症心疾患、慢性感染性疾患など)に罹患している患者。4.全身性ステロイド薬、抗がん剤を使用している患者。5.急性感染症に罹患している患者など。
7)副作用を避けるため是非守って欲しいこととして
  1.初回投与は、自宅でするのではなく医師の管理下に病院や診療所で舌下投与するのが望ましい。2.舌下投与後少なくとも2時間は激しい運動や入浴は避ける(特に花粉飛散ピーク時には注意する)。3.投与直後の食事、飲酒は避ける。などが挙げられています。
  これに加えて、花粉症のシーズン以外で症状のない時期でも、毎日舌下に2分間含まねばならないこと、3年間毎日きちんと服用しても約2割の人は、効果がないか悪化することがあること、などから、患者さんに納得してもらわねばならないこととして下記の用な適応条件が付け加えられています。
8)相対的適応
  1.長期間の治療を受ける意思がある(花粉症では非飛散期も含めて)。2.舌下アレルゲンエキスの服用を毎日継続できる。3.少なくとも一ヶ月に一度は受診可能である。 4.すべての患者に効果が期待できるわけではないことを理解できる。5.効果があって終了した場合も、その後効果が減弱する可能性があることを理解できる。6.副作用とその対処法が理解できる。とされています。
以上の様な項目を満たす患者さんには、皮下免疫療法は推奨できるが、そうでないと途中脱落の可能性が極めて高くなる事が、ヨーロッパなどでも報告されています。こう書いてくると、治療のハードルがかなり高いなと思われる方が多いと思われますが、そもそもアレルゲン免疫療法とは、「花粉症の患者さんに花粉を投与して治す」という、いわば毒をもって毒を制するという治療法である以上、その毒の面(副作用)をいかに軽減し、安全に行うかが最大の課題であるからです。また、治療期間も長期にわたり、患者さん個々人でもその有効性に差がでる事などから、この治療法の限界もわきまえておかねばなりません。最後に、治験にあたった日本医科大学の大久保公裕氏の「舌下免疫療法は、患者と医師が協力し、根気よく続けなければ効果が得られない治療だ」(日経メディカルオンラインより)という言葉を紹介して、本稿を終えることといたします。
追記:実際に治療を開始する場合は花粉症シーズン終了後の5~6月以降からです。

投稿
田坂耳鼻咽喉科 院長 田坂康之

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2015年1月27日 火曜日

肝炎のおはなし

最近、C型肝炎は「注射ではなく、飲み薬だけで治る。」と聞かれることも多いと思います。このことは、間違いではありませんが、肝炎ウイルスのタイプなどや肝臓の状態、さらに健康保険制度や肝炎治療費助成制度などを総合的に考えて治療を決める必要があります。
今回は、C型肝炎の基本的なことについて説明させていただきます。
C型肝炎という病気は、C型肝炎ウイルスが原因で肝臓に炎症が起こる病気です。

感染経路
C型肝炎ウイルスは血液を介して感染します。現在感染されている方のほとんどは、過去の輸血や注射が原因です。かつてはC型肝炎ウイルスに汚染されていた血液製剤での感染もありました。最近ではピアスの穴あけ、入れ墨、医療現場での針刺し事故などによる感染がみられます。

持続感染
C型肝炎ウイルスに感染した後は、約3割は自然にウイルスが排除されますが、約7割は持続感染に移行します。慢性肝炎とは、通常6ヵ月以上肝炎が続いている状態です。
C型肝炎はゆっくりと進行し、肝がんが発症する割合は、段階が進むほど高くなります。
C型肝炎ウイルス持続感染になり、ウイルスを保有している人をキャリアと呼びます。キャリアの方は、肝臓の状態を診るため、定期的に検査を受けることをおすすめします。

血液検査による診断
C型肝炎ウイルスの検査
C型肝炎ウイルス(HCV)の感染の有無は、血液検査で調べます。検査項目には、HCV 抗体、HCVコア抗原、HCV- RNA があります
最初に、HCV抗体の有無を調べます。陽性の場合は感染の可能性が高いと判定し、さらに精度の高いHCV HCV-RNAを実施します。
感染が認められた場合は、治療方針を決めるための検査をします。
肝臓の障害をみる検査
AST(GOT)、ALT (GPT)、γ-GTP、ALP
肝臓の機能をみる検査
血清アルブミン、プロトロンビン時間、血中アンモニア、総コレステロール、総ビリルビン、血小板数

肝生検による診断
肝臓の線維化や肝炎の活動性をみるためには肝生検を行います。肝臓に検査用の針を刺して組織を採取し、顕微鏡で組織を観察します。慢性肝炎の診断だけでなく、線維化の程度や肝炎の活動性をみることが可能です。

治療
C型慢性肝炎の治療には、インターフェロン治療及び内服薬のみのインターフェロンフリー治療による抗ウイルス療法と、病態の進展を遅らせる肝庇護療法があります。
ウイルスを排除するためには抗ウイルス療法が必要ですが、副作用や肝臓の状態で治療ができない場合には、肝庇護療法を行う場合があります。
抗ウイルス療法には、ペグインターフェロンとリバビリンの併用、プロテアーゼ阻害剤(テラプレビル、シメプレビル、アスナプレビル)、NS5A複製複合体阻害剤(ダクラタスビル)などが用いられており、治療薬の開発とともにウイルス排除率は高まっています。
これまでは注射薬のインターフェロンを用いた治療が中心でしたが、2014年に登場した内服のみのインターフェロンフリー治療(ダクラタスビルとアスナプレビルの併用)により、これまで治療を受けることが出来なかった方や、インターフェロン治療で効果が無かった方にも有効な治療ができるようになりました。
どの治療法を選択するかは患者さんのウイルスの型とウイルス量、年齢、線維化の程度などによって決められます。

 おねがい
C型慢性肝炎と診断されているが、定期的に通院されていない方は、すぐにかかりつけ医を決めて受診してください。ウイルス治療には肝炎治療費の助成制度があります。詳しくは兵庫県のホームページをご覧ください。
また、C型肝炎検査を一度も受けたことのない方は、早めに検査を受けてください。無料の肝炎ウイルス検査があります。詳しくは神戸市のホームページをご覧ください。

投稿 
清水内科クリニック 院長 清水惠一

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2014年12月15日 月曜日

高血圧の基準のおはなし

 高血圧の患者さんは普段は何も症状は出ませんが、血圧が高いまま何年も続くと動脈硬化による心血管病(脳卒中、狭心症・心筋梗塞など)や腎臓病を引き起こす可能性が高くなります。
 2014年4月に人間ドック学会から、150万人のドック受診者の中から、とりわけ今健康と思われる約1万5000人を選び出し、その人たちの血圧値に基づいて正常血圧を決めようという考えが報告されました。それによりますと、血圧は「147/94 mmHg以下が基準範囲」という結果であったため混乱が起きています。この報道を新聞で見た時、高血圧を専門とする私自身も、「あれっ?」と思いました。これまで日本高血圧学会による高血圧の基準は、「診察室血圧が、収縮期血圧/拡張期血圧のどちらか一方あるいは両方で140/90mmHg以上」とされていたからです。今回の人間ドック学会の基準値はこの値よりも甘くなっており、患者さんの中には、健診判断値が緩和されるとか、正常範囲の値が変わるとか、誤解を受けた方が多くおられると思います。
 しかしながら、よくよく人間ドック学会の報告の中身を読んでみますと、その基準値はあくまでも、ある時点で健康と考えられる人々の血圧の分布範囲(「基準範囲」)を統計学的に示しただけであり、疫学的研究に基づいて将来脳卒中や心血管病の発症を予測する「予防医学的閾値」とは異なっています。今の時点で健康である人が将来も健康かどうかはわからないわけですから、この人間ドック学会の「基準範囲」に入っているからといって、その人々が5年、10年、20年先に病気にならないという意味ではないということです。本来高血圧の基準は、将来の心血管病の発症を抑えることを見据えたもので、かつ治療目標値となり得るものでなければなりません。その安全基準とも言える「予防医学的閾値」というのが従来の「診察室血圧140/90mmHg未満(家庭血圧なら135/85mmHg未満)」であり、これまでと何ら変わることはないのです。血糖やコレステロール、尿酸なども全て同じ考え方でコントロールされるべきです。
今回、マスコミの報道も少し説明不足であったと思います。高血圧による心血管病や腎臓病になりたくない方は「基準範囲」ではなく、「予防医学的閾値」を重要視されるよう願います。決して人間ドック学会の「基準範囲」内になったからといって治療を受けなくてもよい、薬を減量・中止してもよいというわけではありませんので、自己判断せずにかかりつけ医の先生によくご相談下さい。
なお、糖尿病または腎臓病の患者さんについては、目標血圧は診察室血圧が「130/80mmHg未満(家庭血圧なら125/75mmHg未満)」とさらに厳しいコントロールが求められていることを付け加えさせていただきます。

投稿
国立病院機構 神戸医療センター 内科 三輪陽一先生

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